D物病院の看護士という職業柄,
感情移入は禁物なのだが
どうしても1匹,大好きな犬が居た.
別に特別なついている訳でもないし
何でかわからないけど初めて見たときから
勝手にビビビと来てしまった.
オスのシェルティで名前をベルという.
去年春の病院開業当時にあと数日の命という宣告を
受けてやってきた末期ガンの犬だった.
ホントに生きてるのが不思議なぐらい体はボロボロ.
全身に転移して全ての臓器がガンに侵されてパンパン.
腫瘍がでかすぎてオシッコもウンチも自分で出来なくて.
去年の夏,僕が椎間板ヘルニアで入院する時
「僕が入院する間,彼に何かあったら連絡ください」と
先生に頼んでから入院してたぐらい.
何度も何度も危篤状態に陥りながら今まで生きてきたの.
その仔がいよいよ危篤を迎えた.
呼吸停止状態で運び込まれてきて
様々な処置を施し何とか持ち直した.
それでも予断を許さぬ状況なので
自ら申し出て夜中までついて見ておく事にした.
先生に「僕に帰れって言わないでくださいよ」と宣言して.
容態がそこそこ安定して来ているので家族の方は一旦帰り
先生も深夜の急患に備えて一旦控え室に.
眩しかろうと処置室の電気を薄暗くして
心電図・呼吸数のモニター見ながら
しばらく1人と1匹で過ごす.
意識は無いけど何やかんや話しかけつつ.
しばらくしたらアウアウと口を動かし,
体についてる器械を嫌がるそぶり.
「どした?苦しいのか?」
その直後呼吸停止.
すぐさま人工呼吸に切り替えて先生を呼んで.
人工呼吸器の使い方イマイチわかってなかったつもりなのに
自分でビックリするぐらいすばやく適切に動けた.
そして心臓マッサージ.
家族の方に連絡入れて,「到着まで死ぬなよ」って言う
僕の手の動きに合わせて心電図がピッピッピと動く.
ちゃんと酸素吸って二酸化炭素出してるので生きている.
モニタの二酸化炭素の数字を見ながら心を込めて心臓を動かす.
という訳で家族の方が到着するまで命は燃えた.
もう逝かせてあげましょうと言うことで
僕が手を止めると彼は心臓を止めた.
僕が最近病院に行けないので
今日が去年のクリスマス以来,今年始めての病院だった.
僕が来るまで待ってたんだよって家族の方が言ってくれた.
僕も,そんな気がした.
30分かそこらの間だけどあの仔の心臓の代わりを務めることが出来た.
息を引き取る場所に僕の腕の中を選んでくれた.
ありがとな,ベルちゃん.